【 残像 】
泡沫恋歌

ふとした拍子に
古い記憶が鮮明に
浮かび上がってくることがある

その時食べた食事
見ていたテレビなど
まるで昨日の日記を捲るように
音と色と匂いまで伴って
思い出される 瞬間

たしか
私が作った野菜炒めを
テレビを見ながら二人で食べていた
ロードショー番組だと思うが
グレゴリー・ペック主演の「白鯨」を映していた
暗くて難解な内容だったが
船長がモービー・ディックの背中に乗って
海中に引きずり込まれていくシーンが 
やけに印象的だった――

かつて
私を苦しめた男との
甘酸っぱい記憶だった
なぜそんなことを思い出したのか
不思議なことだ
あの男もその記憶も
捨ててきた 
私の過去だった
――のに、

もうどうだっていい!
娘も父親のことを訊くこともない
彼女にとって「お父さん」は
血の繋がらない 今の人である
娘も大人になったし
あの男を恨む理由も見つからない

色褪せた写真の中の残像
思い出なんて
いっそ
捨ててしまえば
もっと身軽に生きていける


2013/10/25


自由詩 【 残像 】 Copyright 泡沫恋歌 2013-10-25 14:38:40
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