エンドクレジット
飯沼ふるい

古くてチープな映画だった

老年の男が安楽椅子に座り
目の前の暖炉と向かい合っている
解きほぐされた火の中で
男の古めかしい回想が揺れている
男はじっと暖炉を見つめている

一匹の蛾が
明りに誘われてきた
火の腹がふくれて
黒いその影を包み込む

本能はくべられて
それきり
何かがここからなくなった

暖炉の火がぼやけて
次第に男の顔が浮かんでくる
深い皺の刻まれた老人の
物憂げな表情が映し出されるはずが
そこに佇むのは僕だった

エンドクレジットには
蛾も
むろん僕の名も
記されていない

もうじき夜が明ける
星を削ぐ朝が来る
蛾の死んだのはさて
1935年と、2013年との
どちらだろうか
死ぬための蛾、死のための蛾
問いは眠気の中に繰り返され
額の皺が増えていく

TSUTAYAへ映画を返しに行く道中
四辻の真ん中で立ち止まり
両手を掲げた
よぉ、太陽じゃないか
しかし空は僕を照らさない
鳩バスが無人の僕を跳ね上げる

ディスクの破片が散りばめられた
道路を踏みしめる人々に
8分と少し、遅れてくる兆し
その対価として捲られる暦

もうここにいないもの、
浄土、
そのような言葉が
地べたに映る

おわり。 


自由詩 エンドクレジット Copyright 飯沼ふるい 2013-10-23 21:04:14
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