A River Runs Through It
あおば



みじんと鳴って落ちる月
高い梢にキタキツネ
朝露の
濡れる重さに耐えていた

非体験の罪状は
朝日の中でも暴かれて
憎々しげに現れる
認否を迫る百済の観音
内蔵する
輪廻転生の非可逆過程を
清らかな
流れにまかせる媚薬色の
きぬぎぬの別れを惜しむ別嬪さん
痘痕を削る鮫の皮一枚の水羊羹を懐かしむ

ふだらかほだらと練り上げた
不老不死の錬金術は
オート三輪車の走る音
怯える層状の大地から
光る亀裂の隙間から
転調された
男と女のブルースが
薄暗い森の奥へと漂って
無言のままの排気音
油の切れた
ショックアブソーバーからは
掠れて声にもならないうめき声が
タイヤからの不連続な突出を
日々何事も無いかのようにやわらげる
混じり気のないキッスのくりかえし
三条の微かな轍を残し
原色の景色を嘲笑い
赤と黒のしがらみを
山川に架けた咎で
逆さ吊りの刑にされる
おとなしい山男たちを
拷問用の
嫌らしい色をした金属バットで
ぶちのめすエコロジストたちは
悪いのは奴らだとうそぶいて
どこまで行っても
渡ることの出来ない川辺の道を
けたたましい音を立てて
迷惑色のオート三輪車を走らせる

今朝も
通りすがりの
百済観音の干涸らびた内蔵のような
乾いたガジュマロの気根を束ね
明るい眼をした加工場に運ぶ
屈託のないアンドロイドのように
快活で健康そうな青年たちは
朝早いうちから
中央くろがね販売株式会社に
ずらりと並ぶ
ハリケーン125ccバイクの
張り裂けるような音を聞きたがり
なだらかな勾配を求めて
この川辺にもやって来て
思い切り水色のアクセルを吹かし
朝寝坊する勤勉な狡賢い盗人たちを寝不足にする




自由詩 A River Runs Through It Copyright あおば 2005-01-09 04:37:06
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オート三輪