幻燈
そらの珊瑚

夜になると
バーバは魔法使いになる
紙の扉は
たちまち昼の成りを潜めて
世界を映し出す
銀幕になる

指でこさえた狐が
首輪を失くした犬と出会い
なんのためらいもなく
おしゃべりを始める
そこでは影が命を取り戻し
年老いたからといって
見捨てるものはいない
みなブレーメンの音楽隊の一員だから
通訳は要らない

光によって影は生まれ
影によって光は輝く
輪郭線が濃くなれば瞳の彩光は絞られ
ニャオンと鳴いた
月のない夜にだって小さな豆電球がある
星のない夜にだってサーカスはやってくる
光源は次第に熱を帯びて
バタークリームを柔らかくし
夢への入り口をほんのり開ける

夜のフィルターは
現実というかなしみを
薄める構造であることを
こどもたちは
知る
たとえば粉ジュースを水で溶かすようにして
飲み干す
朝になれば
バーバはまた皺だらけの
無口な本体に戻っていた


自由詩 幻燈 Copyright そらの珊瑚 2013-10-22 13:59:07
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