訃報に涙されるのは 一体誰だ
創輝

一人の男性の訃報に 世界中が涙する

ここにいる僕は
他の誰でもなく、僕は
その終焉に涙してくれる人が 果たしているのだろうか

見知らぬ少女の死に
黙って白い花をそえ 冥福を祈る
だれかに 悲しんでもらうために死ぬのではないのに
僕は 誰も参列しない葬式を知った気がして恐ろしい

どこか知らない町で倒れたとして
味方の一人もいない場所で 死んだとして
僕の死に気づいて その死を悼む人は果たしているのか

足元の蟻が死んだとしても 僕は悲しんでこなかった
大雨に心配するのは 蟻やもぐらの住処じゃなくて 育てている花のことだった
それの何が間違っているわけも無いが
蟻の死に涙できる僕だったら 僕の死に涙するものもいるかもしれなかった
こんなに
死というものを考え込まないでいたかもしれなかった

それでも
僕は見つけてしまった 人の死を
誰かが 特別その死を悼み 悲しむことが無い、恐ろしい死を
目をそらさなかったのは 僕が強いわけでもなく
ただ 逸らした先に映るのは一人で朽ち果てようとする僕の屍だろうと思ったからだ
僕は その人の死に 僕が一人で死ぬことが無いように保険をかけたのだ
そんな 僕の欺瞞 僕の傲慢


偉い人 成功した人 優しく 世界の誰からも愛された人

その人の死に 世界はいつまでも涙する

その人が生きていれば 世界はもっと良くなったかもしれない
その人が生きていたら……


その言葉の裏で 選考から漏れた僕達の死体がちらつく
世界は僕の死にきっと気づかない
偉い人たちの死ほどは 世界にとって重要ではないから

それでも僕は

少女の死に 涙する世界であってほしかった
僕の死を 気づいてくれる世界であってほしかった

戦場に生きた少女 死という日常を生きた少女の死を
世界は今日も知らないふりをする
「また今日もですか?」 世界の疑問
朝のテレビキャスターもうんざりだろう
毎日 少年少女の訃報から一日を始めなけりゃならない

それでも 涙するべきだ
どこかで 与えられた場で写真を 文を目にして涙するより
毎日おこる少年少女の死に 涙するべきなのだ 一人一人のために
偉業を成し遂げたどんな人物よりも
戦場で生きた少女たちに 花をそえ 涙するべきだ

偉業を成し遂げた人々の死には
きっと 涙だけでなく 感謝も巻き起こっているはずなのだから
涙だけは 少女達を優先したってかまわないはずだ
死に 涙するという真実さえあれば

「何も出来ない僕ですが」今日も生きて
くだらない社会論争 くだらない イジメ問題
馬鹿なりに考えて 最後まで生きていて
それでも努力が足りないならば 死に気づいてもらえることが無いなら
革命家たちの相手をして 散っていった兵隊達も浮かばれない
誇りなんかは無いけれど
死というものに格差をつけるならば それは国際問題ってやつになる

生まれてくるのが平等ならば
死んでいくのも平等だ
涙されない死である義務はなく

お偉い一人の訃報にしか耳を傾けられない世界でもあるまい

だから僕は
お偉い人々の死には涙を流さず 感謝して
少女の死には花を供える僕になりたい




僕の死には 一輪の白菊でも贈りたい

お偉い人の死には 拍手と手紙を贈りたい

少女の死には 大きな花束と…………


自由詩 訃報に涙されるのは 一体誰だ Copyright 創輝 2013-10-21 17:34:49
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