木(Les Arbres)
葉leaf

〖一本の木が、忘れ去られた復讐のように立っている。木は、日の光に葉をざわめかせながら、停止点を刻んでいる。頑なに、雪を拒んでいる。樹冠からは水平に三本の木が伸びていて、それぞれが斥力に泳いでいる。そのうちの一本の木の枝に取り付いた果実が、街々を夢見ている。別の一本は斧の痕を痛みながら、樹皮の内側に羽虫の卵を蓄えている。残りの一本ははらわれた枝の根元に、新しい芽の拍動を感じている。下生えはいよいよ透き通り、蜜のように風に溶ける。土壌は島のようにあちこちに浮いており、境界において真空に同化する。蜘蛛の郷愁。遥か下方でマントルが。〖静まった嵐の球体が辺りにちりばめられ、鈍い光沢の中に断罪の意思を映している。木々は怯えて許しを乞うが、幹の磊落さは失われない。しばらくして球体は配置を変え、青空の軍歌のように意思を失う。光を切り裂く失踪鳥。木々は安堵して枝を伸ばし、分枝点へと応力を按分する。〖右手には二本の高さの異なる木が生えていて、一本は根が透けて見え、もう一本には葉がない。ここからはその二本の木までの正確な距離を測ることはできないし、どちらがより近いのかもわからない。根の晒された木は時おり気体分子に隠されて再び現出するが、生長の遠因を失っている。鳥の巣だけは目に鮮やかだ。葉のない木は少年の夢想のように、静かに崩れ落ちる。かすかに歌声が聞こえる。そして木の残骸は、静謐の中に運動の余韻を残す。その上を見慣れない蜥蜴が走る。液的な恋情。雲はいよいよ形を変えて。〖上空から木々が逆さまに連なってい、その先端は蝶の航跡に分け入っている。空への反照が生々しい。木々は地上に在るものを挑発し、雨のように遠ざかる。そして癒着点にて反転し、再び近づいてくる。一瞬だけ、馬の形になる。空に一番近い木のひとつの枝に花が咲いている。その周りだけ空は光を失い、窪んでいる。時の柔らかさ。花弁は無情に明るくて。〖突如視界を蝕むものがあり、劇中劇は終わりを告げた。


自由詩 木(Les Arbres) Copyright 葉leaf 2013-10-18 12:59:34
notebook Home 戻る