犬死にアイリス
和田カマリ

その犬は吼え続けた
吼えて
吼えて
部屋中を憎しみで埋めていった

玄関チャイム
電話
きっかけはいつも些細な音

しかし犬は
それらの音を逃さない
激しく喰らい付いていく

吼えて
吼えて
息つく暇も無い

やがて
時間差で聞こえてくる
自分の声にすら吼え始めた

もういいだろう
吼えないでくれ
ほらお菓子をやるから
ダメなのか
どうしたらいいんだ
頭が変になる

「アイリス!俺を舐めるているのか。」

叩いて黙らせたい
叩いてねじ伏せたい

俺は鬼のような叫びを上げ
犬をコーナーに追い詰めると
スリッパで鼻先を打とうとした

「遅ればせながら、お前に躾をしてやる。」

その刹那
アイリスの様子がおかしくなった
まるで弾切れのレボルバーの・・
トリガーを引くように
カッカッ
ケケッ
次第に声が
小さくなっていく

犬が死にそうだ
俺の目の前で横転すると
前肢を突っ張り震え始めた

しかし犬は
そんな状況でさえも
更に吼えようとしていた

ケホケホケホ

虫歯で汚れたキバに
みるみる
血の泡が沁み込んでいく

アイリスが死んだ
歯を剥いて死んだ
目を開けて死んだ
血を吐いて死んだ
心臓麻痺で死んだ
死んだ
死んだ
死んだ

死後硬直の後
それは
吼えている犬の剥製のようになった

その沈黙はうなされるように
俺のクモ膜下にこびり付くと
次第に強度を増していった




自由詩 犬死にアイリス Copyright 和田カマリ 2013-10-17 18:56:19
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