ひねくれ者より献花です
ただのみきや

あなたのような人は長生きしてほしい
そう素直な人あってのひねくれ者だから
だから九十四歳は悪くない 悪くない
これでも献花のつもりなんだ

アンパンマンを見たことがなかった
なのにアンパンマンについてあれこれ知っている
子育てをしたらいつの間にかそうなっていた

重病の子供ばかりが集う病院
ICUの一歩手前の病室へ三年間通った
大きな頭の水頭症の子
黄色くなった腎不全の子
生まれつき心臓がうまく機能しない子
体のあちこちに奇形と欠損がある少女
髄膜炎から敗血症になり脳にダメージを受けた
わたしの息子
何人もの子供が入れ替わりその殆どが亡くなった
ある日ベッドの回りが慌ただしくなり
両親が(いる子は幸いだ)子供の名を呼び続け
やがて静かになり 
次の日にはすっかり片づけられている

そんな子供たちの病室にはいつもアンパンマンだ
ドラエもんより ピカチュウより ミッキーより
アンパンマンの人形
アンパンマンの歌
アンパンマンの声が聞こえるおもちゃ
アンパンマンの絵やアップリケ
手作りでアンパンマンの刺繍飾りを作る母親は
アンパンマンは簡単だがドキンちゃんは難しいと言っていた
おれはそんな会話を小耳にはさみながら
《メロンパンナちゃんよりロールパンナちゃん
 魅力はやはり顔が半分隠れているからか……? 》
なんて思いながら息子の痰を採っていたのだ

クリスマスには理学療法士の兄ちゃんが
病室でギターを弾いてアンパンマンのマーチを唄った
一言声をかけてくれたらもっとうまく弾いてやったのに
だけどその歌詞はあまりにシュールで(あなたの作だ)
子どもたちの現実を痛ましくも優しく包んでいた

あなたは詩人だった
本屋で二回ほどあなたの詩集を読んだことがある
残念ながら中味は全然覚えていない
おれの笊の目は粗く石ころばかり
砂金はみんな流れてしまうようだ
だが忘れようもない歌詞が一つある

『ぼくらはみんな生きている
 生きているから歌うんだ
 ぼくらはみんな生きている
 生きているから悲しいんだ
 手のひらを太陽に透かしてみれば
 真っ赤に流れるぼくの血潮
 ミミズだってオケラだってアメンボだって
 みんなみんな生きているんだ友達なんだ 』

いつかとぼけたヤツが総理大臣になって
「国歌を『君が代』から『手のひらを太陽に』へ変えます」
なんて言ったとしても まあ悪くはない 
おれは反対しないだろう

あなたが駆り出された戦争が終わって六十五年がたった
科学と技術は進歩したが人間だけは変わらない
今も地球上に腹を空かせた人々が大勢いるのだから
世界が待っているのは敵を吹っ飛ばすマッチョなヒーローか
病の子供たちを慰め空腹な者に自分を与えるヒーローか
まだまだあなたの子どもは忙しそうだ







自由詩 ひねくれ者より献花です Copyright ただのみきや 2013-10-16 23:48:34縦
notebook Home 戻る