【 砂の記憶 】
泡沫恋歌

口角からはみ出た口紅を
小指の先でそっと拭う
赤い口紅は
いつも私を強気な女に変える
呪文のように
優しい嘘を口から吐く

独りぼっち
砂の上を歩いていた
彼方にオアシスが見えるけど
近づけば 
近づくほど 遠くに逃げていく

凝視する男の眼
その手に持ったグラスに
発酵した嘘が注がれている
白い泡が唇に付着して
嘘つきの道化師
信じたら方が
負けだと分かっていた

ふたりは
砂の上を歩いている
果てしない砂の海の漂流者
歩いても
歩いても どこにも辿り着けない

灼熱の太陽の下
点々と残る足跡は
私に打ちこまれた愛の楔
漠として
時が経てば
黄色い砂嵐がさらっていくだろう
失くしてしまった
片っぽのハイヒールはどこ?

私の海馬
砂の記憶の中で眠っている




自由詩 【 砂の記憶 】 Copyright 泡沫恋歌 2013-10-15 19:58:12
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