雉も鳴かずば撃たれまい
涙(ルイ)

秋に扇なんて いったい今何月だと思ってるの
もう10月よ
夏の名残を惜しみたい気持ちは解るけど
そろそろ仕舞わないと
変な人だと思われるわよ


雲泥の差ってさ
空に浮かぶあの雲と地面の泥を
誰が最初に比較なんてしたのかしらね
似たようなもの同士で比べるならまだしも
最初から勝負は見えてるじゃないの
きっとわかっててワザとやったのよ
優越感に浸りたくてたまらなかったんだわ
絶対そうに決まってる


鵜の真似をする烏って嘲笑するけれど
泳いでみたい烏がいたっていいじゃないの
溺れることがわかってて
それでも水の中に入ってみたかった
わかってるよ どんなにあこがれたって鵜にはなれないことくらい
烏は所詮人に嫌われるゴミ荒らしの烏
だけど 憧れる気持ちくらい許してくれたっていいじゃない
たとえ身の程知らずと嘲り罵られようとも


鴨が葱背負ってやってくるわけないじゃないの
そんなことしたら鍋にして食べられちゃうのよ
食べられる気満々で 近づいてくるような奴がいると思う?
何でわざわざそんな危険を冒すような真似をするっていうのよ


腐っても鯛なんていうけど
それってただいつまでたってもプライドを捨てられない
見栄っ張りのコンコンチキにしか思えないのよね
だって腐ってるのよ もう食べられないのよ
いくら高級食材だからといってちやほやしすぎなんじゃないかしら


飼い犬に手を噛まれたからって
そんな烈火のごとく怒ることじゃないじゃないの
少し冷静になって考えてみるといいわ
あなたが先に なにかしてる可能性だってあるのだから


地獄に仏っていうけど
毎日が辛くてしんどくてたまんなくて
もうどうしていいのかわからないそんなときに
ふとやさしくされたら
誰だって仏のように見えてくるに違いないと思うのよ
でも 気をつけたほうがいい
自分が弱っているときほど つけこんでくる人間もひとりや二人じゃないでしょう
これこそまさに地獄に仏っていうものなんじゃないかしら


坊主憎けりゃ袈裟まで憎い
袈裟が憎けりゃ数珠まで憎い
数珠も憎けりゃ足袋まで憎い
憎しみという感情はどんどんと増幅していくものだということを
私は経験から学びました


善は急げ 急げ急げ
急いで走れ 突っ走れ


堪忍袋の緒が切れました
ブチっという鈍い音が たしかに聞こえました
ブチキレるとはつまり そういう意味だったのです


どんなに煮え湯を飲まされても
喉元すぎれば熱さも忘れてしまう
煮え湯を飲ますなんてよほどの悪意がなければできないことよ
そんなにアタシのことがキライだったのね


残り物に福があったためしはあって?
売れ残りのバーゲン品にいいものがあったためしがあるかしら
おいしいところは全部先に持ってちゃって
残り物に福とは凄まじい


引かれ者でも強がりくらい言ったっていいでしょ
小唄のひとつも歌えなくなってしまったらお終いよ
それに こんなの平気へっちゃらって思ってでもいなけりゃ
とてもやってられやしないじゃないの


溺れるものは藁をも掴む
そんな頼りないものでさえも頼りにしてしまう
まさか自分がそうなるなんて思ってもみないけど
でも 死の瀬戸際に立たされると
人間 何をするかわかったものじゃないわね
必死になっちゃうのね
おかしいわね あれほど死にたがりだったくせしてさ


枯れ木も山の賑わい
あれは木が枯れているわけじゃなくて
葉が枯れ落ちて 枝がむき出しになってるだけですから
失礼なことは言わないでいただきたい


井の中の蛙、大海を知らず
一歩外に出る勇気もないくせに
家の中じゃ威張り放題
一生その井戸の中にいたらいいわ
そこはとても安全で居心地がいいんだろうから


へそが茶を沸かすところを
一度でいいから見てみたい


そんなくだらない空想にふけっては
今夜もまた 午前様です



自由詩 雉も鳴かずば撃たれまい Copyright 涙(ルイ) 2013-10-10 19:14:21
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