秋の耳
佐東
遠く
離れたままで
聴こえない
聴くことのできない
あまりにも
薄くのばされた夜
わたしたちは
南回りでまたたいている
天球儀は
魚眼レンズに切り取られ
森の陰影に
ふりがなを付ける
滲んでゆく夜の縁取り
+
たちのぼる
年老いた椚の天辺
フォーマルハウト
その周りを
星の子どもたちが
手をつないで囲っていて
ぐるぐるとまわりながら
秋を蘇生させている
+
(丘の上の
(ミルフィーユへ
単音の風の
やわらかな母音で
灯される
カンテラの月が
嗄れた枝さきに
青白い
光の乳房を形づくり
揺れている
いくつもの配列の中で
あなたは
一枚ずつ
しずかにねむっている
(伴奏は要らない
息を吹き返した虫たちが
しずかな寝息を
置いてゆく
翅のふれあう音だけが
所在なく 中空を
りぃーー。
と漂う