秋の耳
佐東

遠く
離れたままで
聴こえない
聴くことのできない
あまりにも
薄くのばされた夜
わたしたちは
南回りでまたたいている

天球儀は
魚眼レンズに切り取られ
森の陰影に
ふりがなを付ける
滲んでゆく夜の縁取り


+


たちのぼる
年老いた椚の天辺
フォーマルハウト

その周りを
星の子どもたちが
手をつないで囲っていて
ぐるぐるとまわりながら
秋を蘇生させている


+


(丘の上の
(ミルフィーユへ

単音の風の
やわらかな母音で
灯される
カンテラの月が
嗄れた枝さきに
青白い
光の乳房を形づくり
揺れている
いくつもの配列の中で
あなたは
一枚ずつ
しずかにねむっている

(伴奏は要らない


息を吹き返した虫たちが
しずかな寝息を
置いてゆく

翅のふれあう音だけが
所在なく 中空を
りぃーー。
と漂う






自由詩 秋の耳 Copyright 佐東 2013-10-07 21:58:53
notebook Home