近景
岩下こずえ



ある傾斜においてうつむくのでなく
あたまならがっくりと
垂らすせいで
きみの、
頸椎が
くらい空にすっかりひえてむけてしまい
きみの視ないものにちゃんとかぞえられる
都心から二時間の
うすいのがよいと素直に逆をとるのがめんどうでさえない
温泉で
あたためられたが
それはわたしたちのためではない

この小さな駅舎も
ターミナル、突端でいて。わたしたちにつねに駅が
似合ってきたとするなら
秋雨の
薮のひかりも蒸散する
ものの
においだけ嗅ぎながら
行くあてもなくおきざりにしたからかもしれない
ここではないどこか
でもない
車窓で振りかえるまもなく見切れてゆく
あの遠いちいさな家々の
ように生は
そーゆうレトリック使うから
終わんないのね、いまのかんじが

なにそれ
ああ破れまんじゅう、職場のひとに
わたすの。いいひとだものね
きっとこんな風でなくて
笑えているはずだし
そうだね

ありうるやらあらゆるやらゆるゆるとゆらめかせる
ばかりの。ばかりでもなくあるはあるといいそえる
だけの。だけではないこれきりでそとはないからと
縫いとじては、
せわしなく午後ティーのボルトをひねって
あごをむく
ひくい雲の水分にじゅうぶんにしめった
唇を
過分にぬらすくらいで
胃までのまない
肋骨のうらで
きえる
つめたいのに
のどぼとけが、うわずりかける
手前で
不充足を充足に
それ食べちゃわないの。食べない。
なんで?
は、どちらが言ったのだか

どーぶつを塞栓する、ついでにせーしんも
背伸びしたふりで
からだの死んだようなとこだけ
あちこちに
尖らせる
いまのかんじがつづいてゆく
ぎしぎしときみもきみのきみも軋り
山の裏手のらいこうより
電圧の不発をたかめる

とはいえ遠景
もし遠景というものが可能であり、そこから
かぞえるように
まなざしうるとするなら
いつのまにか鳴りはじめていた五時のサイレンに気づくほどの
閾をこえぬ
ふるえに
すぎないのだが



自由詩 近景 Copyright 岩下こずえ 2013-10-06 23:35:29
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