ワレモノワレワレ (生体反応の設計)
乾 加津也

我々はこまかい罅を 感じている
誰にもある
あかるい三月の路上で
したたるような朝がまぶたをひらいた
我々がおもえば
頑固な落葉松の ひきしまった松根の一本や二本
適度なふかみの罅がはいる
 企業? 国家?
そうだ 秘密結社
 合言葉は
ワレ・モノ・ワレ・ワレ
うっすらとした罅によって我々はワレモノなのであって
それは 半月の晩に交わされた会話
「もしもし われわれはワレモノです」
「そうですか ワタシもアナタも遠のく わけだ」
割れた縄文式土器
割れた真空管
割れた生卵に
割れた茶碗
 はぁ きどった集合体
 えへへ いじらしい文明
ゆえに われもワレなり!
パッとひらいた花が
 美しい

われわれは 五月のこいのぼり
われわれは 北極にするどい氷山
      砂漠を通過する一夜の疾風
たちどまる
      おじぎ草のたたみ込まれた葉脈
      神の眼にとまった一遍の物語
ついさっき
      我々をさかのぼった場所で造られた
 だ断断断 ん 断層
――顕微鏡にひしめく細胞分裂―――

雪はちぎれているようで実は割れている その上の
大気は巡っているようで実は戸惑っている その上の
宇宙は掠れているようで実は 創だらけだ
それからとうとうわれわれは
たとえ死んでも 孤独ではないのだ
―――死者のわれわれはいつまでも飢えている
―――生者のわれわれはいつまでも貪っている

こぼしたビスケットの粉も
花壇に色めく丸いオブジェが
 このワレワレ しかたのない
われわれ
 どこまで気絶してもアパートの部屋番号
 どこまで驚いてもビルディングの窓鏡
「おお WARE WARE
 そうだ WARE WARE」
これからの誓い? 小指なんて すぐに引きちぎられてしまうわ
未来への封印は接吻で? もろい雷ばかり鳴りやがる
「もしもし われわれはワレモノ」
「もう コトバも見えないほど
    カタチも聞こえないほど」
 とおい とおイ とオイ トオイ
   ワレモノ ワ・レ・ワ・レ


自由詩 ワレモノワレワレ (生体反応の設計) Copyright 乾 加津也 2013-10-04 22:43:11
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