はじまりの光のよるに、星を見ていたと伝えよう。
北街かな


宇宙誕生の冷たい光にうっすら溺れていた僕の近くで、
きみのみなもとが粒に変わって、星のあいだに流れていく。

ただ空を見ていたんだ。すべてはただ広がっている。
膨大になるばっかりの空間が、時間を刻んで星をふやしている。
宇宙はかつてきみの塞がっている胸のようにすさんでいて、
つめたく闇に満ちていたのに。

さまよう粒の群れはみな恋しがり、いずれ手を繋ぐばかりだ。
銀河が銀河を呼び集める果ての果てのその先に、
空洞ばかりが置き去られ、ただ、空っぽに広がるんだ。

どこまでも。

そうしていつか、宇宙はとてもさみしくなるよ。

おそろしいとか悲しいなんて、誰が口にした感情だった?
くろい広いからっぽだけが
どこまでも続いていくのを死星たちが見送るだろう。

なぜ生まれたのですかと背景放射に聞いた。
宇宙灯台を建て、ロケットを噴かせて聞いてみた。
その答えを聞くのは人間の耳であると液体ヘリウム管は言い、
その答えに触れるのは人間の肌であると、円錐型導波器は震えていた。

時空と星と僕らのすべてが生まれた証拠を求めて
遠く打ちあがっていった灯台が覗き込んだのは
宇宙がかつて解き放れたときの、単純さに満ちた世界だ。
そこにはただ、光だけがあった。
光の中で形ある光景がめざめたそのときから、
僕らは広がりながら、ぎゅうぎゅう引き寄せあっていく。

彼方に拡散しながら隣の銀河世界へと吸い込まれていく。
よりおおきなものとなり、再び闇へと戻るために。

なぜ光りだしたのですかと星に聞いてみる。
じゃあなぜ反射しているのかと、
その姿を光のもとに晒したのかと、
星は光を吹き飛ばして爆発しながら叫んでみせた。
γ線の絶叫がまた地上に届いている。
いくつかの種が息絶える。
ばたばたばたと断絶して、
また、誰かが生き残る。
僕と、あいつと。
耐えがたい顔をしている君と、
それから。


すべてが始まったその日からはるか、最初の光は絶えることなくここまでやってきたじゃないか、
宇宙のあらゆる角度から訴えかけられるその温度は
途方もない現実がかつてずうっと彼方で始まったという冷ややかな証だ。
こんなに複雑になってしまった世界は全て、かつてただひとつの光から放たれた。
その光の驚くほどの単純さとゆらめきが、あらゆる可能性を時空にあたえたのだ。

その光を、かすかな波を、頭のうえで受信している。
夜を見あげれば星を美しいと思うだろう。
闇で光の輝くことが、どれほど美しいものかと泣くだろう。

はじまりの頃の巨大な光が晴れ渡っていく時空を照らして、
ようやくその時代、形ある宇宙の光景が開かれ、ゆらぎは互いを引き寄せあった。
そのときの記憶だろうかと、僕は聞いた。
星が好きだという君に聞いたんだ。
星を見て美しいと思うその根拠は。

希望を光だと思えるこの幻想は。


なぜ、生まれたのですかと星のない空に聞いてみる。
そこにはただ滑らかな放射がひろがっていた。



自由詩 はじまりの光のよるに、星を見ていたと伝えよう。 Copyright 北街かな 2013-10-04 20:22:17
notebook Home