痛みと妄想と肉体の輪舞命題
北街かな



慟哭しながらガラスを割り続けていたら部屋がとがった粒子で埋もれていきました
ばらばらのぱらぱらなガラスのなかに飲まれていたら皮膚が血だらけになっていたのです
だがそれでも動けないというのか

平坦な窓から見える電柱には世界を知ってるかみさまがとり憑いているさ、
どこまでも伸びて宇宙に達し、いずれは月にも届くのでしょう。
電柱を抱きしめていたら月世界を横切って
小惑星帯を突っ切って
木星の磁気圏に頭をやられ
好きです地球が好きです生きることが好きです私の肉体が生きていることが大好きなのですと
思ってもいないはずのことを口にした

胃液は大海であり
腸は森林であり
脳は南極であり
脊髄は赤道であり
爪は北海道であり
てのひらの生命線は三十六号線であり
鼓動は雨音であり
髪の毛は電磁波である

失われた六億年の地層のなかで僕らの赤道は生まれ
柔軟さを強靭に支えながら広すぎる海から地上を目指したのだ
追いやられるように放散していく綿密な生命構造が笛の音で形態変化していく
それは五時間目のダンスの授業で
まるで減数分裂のように
限りある愛を分けあっている

皮膚のなかに溺れていたら痛みだけが割れ続けるガラスの雨となり降って散って部屋を埋め
痛い苦しいだなんて口が裂けても夜が裂けても心が生まれても言葉にしてはいけなかった
どれだけの危機に停滞が逆流しかけても
だが、それでも動けないというのか?

私の肉体が痛みを感じるうちはまだ
わずかにでも心があることを信じられるようにも思えたのだ
なぜ生まれたのですかと生物学にたずねてみると
その問いに答えることが生きるということなのだと精神医学がこたえるのだった



自由詩 痛みと妄想と肉体の輪舞命題 Copyright 北街かな 2013-10-01 19:37:44
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