辿りつくまで
石田とわ

     そのひとは俯くことをせず
     まっすぐに前をみていた
     履いているジーンズはうす汚れ
     家路をいそぐ人々が乗る電車の中
     ぽっかりとあいた空間
     そのひとは靴をはいていた
     踵に穴があき、前は大きく口をあけ
     素足の指がみえる
     むかし靴だったもの
     爪が長く伸びていた
     そのひとの身になにがあったのか
     問える人はなく、だれも知らない
     電車を降りるときまっすぐに前を向く
     まだ若く美しい彼女を
     振り返ることはできなかった
     
             


 


自由詩 辿りつくまで Copyright 石田とわ 2013-09-29 23:49:36
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