言葉にまみれて
まーつん

 言葉は釣針
 この胸の泉から
 秘めた思いを、釣り上げる

 言葉は銃弾
 憎しみを込めて撃ち
 いつか、その報いを受ける

 言葉はスパンコール
 貧しい心を飾りたて
 目抜き通りを、練り歩く

 言葉は街灯
 一夜の夢に迷う蛾を
 明かりの元に、引き寄せる

 言葉は種
 時満ちた心の実り
 綿毛となって風に運ばれ
 誰かの足元に届く

 言葉は氷
 不意に掌に載せられて
 君を我に返らせる

 けれど、目覚めは一時
 叡智は容易く失われ
 指の間を流れ去る

 言葉はマッチ
 君の心に火をつける
 冷たい雨が降るまでは
 負った火傷にも気付かない

 言葉は影絵芝居
 日中の気休め
 土塀の面に躍らせる
 暗い獣が牙を剥く

 言葉はシャドーボクシング
 果たされない誓い
 空想の勝利が
 臆病なプライドを
 空しく満たす

 言葉は陰茎
 無垢な心を知識で犯すための道具
 白いカンバスを汚す泥はね
 何かを知ったような
 気になれる麻薬

 言葉は鞭の一振り
 無邪気なはしゃぎ声を
 ピシリと黙らせる
 冷酷な教鞭


 でも、
 言葉は…、
 触れ合おうとする
 二つの心から
 伸ばされた
 互いへの指先

 君に、愛の言葉を
 囀る鳥に、朝の唄を
 ちびた鉛筆で、書き殴る
 夜を明かしたファミレスの
 くしゃくしゃに丸め投げ捨てて、
 広げなおした紙ナプキンに

 どこまで本気か、わからない
 騙された振りを、して欲しい

 日差しを浴びるバイクに跨り
 君と僕とで、走り去ろう

 言葉にまみれた
 言葉で汚れた

 この街から







自由詩 言葉にまみれて Copyright まーつん 2013-09-29 19:38:22
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