たとえば九月みそかの
もっぷ

なんにもない場所で佇んでいる冬とは対照的に
待ち望まれていた秋がシャンデリアのもと自意識過剰に笑みつつ
深夜の鏡に自分を映し深紅の薔薇へのまなざしをして
まだ気がついてはいない

季節風すら座り心地の良い秋の空の黄金に身を預けて
まだ気がついてはいない

冬もまた深夜の鏡をしのばせてあるその鞄をそっと
空の空白に置くだけでは済まされない熱を溜めつつあること

たとえば音も立てるとしようその鞄は白金の輝きすら詰められて
新しい光りは閉じ込められ続けるわけにはいかない
放熱への産道を正しくみつけるだろう

いまはなんにもないその場所だが確かに
近隣で絵描きの往来が日に日に盛んになっている
一流の腕、筆、そしてそう何が似合うだろう
色彩をつかさどる役目を引き受ける画材には何が

今日より少し前にカレンダーの数字をみながら
母国の北の里ではこの命も終わる頃合いと
がっかりしながら萎れていった花たちがある
大地に生きる逞しいはずの野生たちのことである

それでもまだ気がつかない様子をみると
秋はまるで勘違いをしている緞帳役者のようだ
終わったあとに地表の諸々は私をふり返ってなみだする、とか

違う違う違う実はいつも次、なのだ
冬よ、おまえも知るまいにと、何者かの未明のツイート

冬もまた気がつかないうちに弔われ散って消えてしまうだろう
いつも次、いつもだ。



自由詩 たとえば九月みそかの Copyright もっぷ 2013-09-28 04:38:09
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