逆立ちで、歩こう
まーつん

ある日
道の真ん中で
ヒョイ、と逆立ちしたら

世界も一緒に
ひっくりかえり
地面が上、空が下、
積み上げた一切合財が
元の木阿弥、振出しに戻った

海から魚が落っこちて
滝のような水しぶきとともに
大きな口を開ける 空に還っていく

ビルの窓からは溜め込んだ金が
ひらひら、じゃらじゃら
空に零れ落ちていく
壊れたスロットマシンのように

日差しを浴びて
キラキラと
ウィンクするコイン
踊りひらめく万札

僕はげらげら
笑い出した

学校の校舎からは
用済みになった教科書が
底なしの青い井戸に
身投げしていく

ページの一枚一枚が
バラバラにほどけ
猟師に狙い撃ちされた
鳥の羽のように舞い落ちる

紙ふぶきの間を縫うようにして
真昼の光の向うに霞む星の海へと
無数の鳥が舞い降りていく

世界をひっくり返した僕は
頭上の地面から手を放し
空に足を踏みしめて
恐る恐る 歩き始める

ふわふわ ふわふわと

大地は今や
頭上を覆う天井
息を詰まらせる圧迫感

見上げてみると
さっきまで歩いていた
道のアスファルトのひび割れから
ミミズが一匹顔を出していて
僕と気まずく目が合った

僕はこっそり囁きかける
そのまま隙間に挟まっていな
うっかり天国に落っこちるなよ、と

今や人々はバラバラと
奈落の空に墜ちていく、か
手近にあった手掛かりに
幸運にもしがみ付いている
足をばたつかせながら

カラスが一羽バタバタと
騒々しく鳴きわめきながら
僕に向かって訴える


やいやい
なんてことしやがる
てめえの世界を引っくり返して
何が面白いってんだ おい

さっさと元に戻しやがれ
松の木の天辺に構えた
俺の巣が台無しじゃねえか ゛

僕は朗らかに言い返す


この世界が
僕のものだったことなんて
ただの一度もありはしない

この世界が
僕を愛してくれたことなんて
長い蔑みの間に起きた
短い気まぐれみたいなもの

ボードゲームに負けそうになったら
盤をひっくり返すのも手の一つさ
ルール違反と呼ばれても
破壊の愉しみはやめられない
復讐ほど甘いおやつは他にない ゛

見下ろすと 足元の空から
微笑みを浮かべた天使たちが
両腕を広げてやってくる

そして
落ちてくる生き物を
抱きとめては
どこかへ連れ去っていく

近づいてくる
一羽の天使に気が付くと
カラスは悲鳴を上げて飛び去った

天使は僕に
語り掛けた


あなたも馬鹿ね
愛してくれる人もいたのに
全部まとめて捨ててしまった ゛

指さす先を見てみれば
かつての恋人が
スカイツリーにぶら下り
揺れる足元に広がる
奈落の空へと落ちるまいと
必死にしがみついてた

希望を探す彼女の目が
僕の顔を素通りしていく

もう少し
続けようか

世界の垢や汚れが
全部、星の海に
零れ落ちてしまうまで

だって 思う存分
楽しんだだろ、みんな

愛や憎しみに
まみれながら

泥だらけになって
傷だらけになって

いろんなものを創って
いろんなものを壊してきた

そんな世界を
もう一度揺さぶって
こびりついた汚れを
振り落してあげなければ

遊び疲れた
子供の身体を

シャワーで
洗い流すように



余計なお世話ってやつかな?





自由詩 逆立ちで、歩こう Copyright まーつん 2013-09-26 12:51:03
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