開口
salco

休日の正午前、
あなたは図書館に向かう歩道を歩いています。
2メートルほど前にトロピカルピンクの半袖ポロシャツ、
ストレートジーンズの中肉中背、
22、3歳と思しき男性がふと立ち止まり
左脇に提げたオレンジ色のリュックサックを開くなり
「ウワ、ウワアーーッ!」
声を限りに叫び出しました。
一体どうしたのでしょう。

? 弁当箱が燃えていた。
? 500mlペットボトル大のなめくじが蠢いていた。
? 母親の頭部が入っていた。
? どこかのホテルで男を充電している恋人を見てしまった。
? ラバウルの密林で餓死したと聞く曽祖父が手榴弾を投げて来た。
? 主人の小人が中でリモコンの「激情」ボタンを押したから。
? 中のゼロ気圧に吸い込まれそうになっている。
? 同じ服の自分が血まみれで倒れているのを俯瞰している。
? 後ろから来たあなたに襲われた。
? 自分がそうして5年も前に死んだのだと気づいたから。

さて、正解はどれだと思いますか?

では、
? 弁当箱で自然または時限発火したおかずは何でしたか?
? あなたは巨大なめくじをメタファーとして捉えてしまいましたか?
? そんな母親の人柄と何者かに斬首されるに至った経緯を用意して下さい。
? これは不正解。裏切りの衝撃は自尊心にフィードバックされ速やかに被害意識=自己正当化循環思考(憤懣)へと変性するので発声には及びません。
? 見も知らぬ曾孫に向け享年26歳(数え)の曽祖父が最後の反撃に出た理由は?
? 我々がこうして靴屋の小人の戦闘ロボットでしかない事実を例証して下さい。
? 閉じたリュックサックで爆発的な減圧が起きる原因は?
? あなたもこうした想念を一種の気散じや思い過ごしとして自動的に打ち消していますか?
? あなたが見ず知らずの人を襲った動機を教えて下さい。
? すると2メートルほど後ろを歩いていたあなたとあなたの今とは一体?

さて、あなたの想像力はどれだけロジックのバラストを引きずっていましたか?


自由詩 開口 Copyright salco 2013-09-25 23:33:03
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