確執
ただのみきや

あの日脱ぎ捨てた古い自分が
心の隅でそのままになっている
糸の切れた人形のように
死よりも冷たい生者の顔で


ポンペイのように時の塵に埋れ
欲望の形に空洞化した遺骸あるいは
まだ温もりを残す聖骸布に袖を
通すぎこちない手つきで目を閉じて


清流に住む/己の毒に病む


過去に戻ることは容易か否か
林檎が落ちるように人も堕ちる
堕落は万有引力に等しく
人の意志は法則にも打ち勝つが
勝ち続けることはできはしない


良心を隠蔽した夜に月は顔を失くし
女の嗤いか男の哀哭か誰かが頭の中で
ああこれは血肉もう脱げはしまい
削ぎ落とすなら骨しか残るまいと


溺死した魚が目を覚まし跳ねる
その飛沫に興奮して自らの項を咬む
自分がいる死の皮を被って青く
全ての他者と隔絶された呼吸




自由詩 確執 Copyright ただのみきや 2013-09-24 22:37:14
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