プロミネンス
壮佑


いつもすでに記憶だった夏の日に
俺は裸体を晒した少年少女達と
沖合を鳥が群がる海を見たかったが
だれひとり気付かぬうちに
海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた
熱気だけが渦巻く無音の嵐に
真夜中の街路樹の果実は金色に弾け
白昼の都市はあらゆる場所で錯乱した
見ろよ水平線を 待ち焦れた空を
天空の片隅に鳥達を追いやって
西から東へ視野いっぱいに
燃え上がる紅炎のアーチ
星々が何億年も語り継いできた
青白い水母のような蜃気楼を
無数の真っ赤な蛇の舌で
メラメラと焼き尽くすプロミネンス
あらゆる屍骸は透明なまま
氷の島弧に沿ってひび割れた海溝に深く沈む
きのうお前は廃棄された黒い砂漠に欲情したか?
俺は疾走する光の森から滴り落ちる樹液に
眠りのように溶けてゆく都市を舌で愛撫した
あしたお前は海縁に立つ暗い工場の
砕けたセラミクスと精密機械の破片に混じって
アホウみたいに嗤う蝸牛の殻を踏み拉くのか?
俺はこの都市に何百万年も堆積して
磁気浮上式リニアの高架の下に埋まっている
悪辣なヒトデの化石を掘り起こすと
無の戦術核を仕掛けて派手に爆破する
そうして月光をキラキラと反射しながら
永遠に干満を繰り返す海原に抱かれて
思い思いに裸体を翻す少年少女達と愛し合う
それが俺達の夏だ
血よりも凶暴な夏だ
にじみ出る汗と混ざり合って
頤から滴り落ちる椰子の果汁を手で拭うと
俺は自らに独り言を呟くことを
輝かしく禁止する





自由詩 プロミネンス Copyright 壮佑 2013-09-23 20:22:44
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