雑踏の中で
葉leaf



言葉なんて要らない
あんなにも人を動かす言葉なんて要らない
街のさびれた一角の
小さな自転車屋の店内で
カンカン音を立てながら工具で自転車を直す
あのおじさんの鋭い技術が欲しい

道徳なんて要らない
あんなにも人を行儀よく振る舞わせる道徳なんて要らない
一面に晴れた野原で
少年と少女がかけっこをする
少女が転んで少年がからかう
彼らの間にある生まれたての呼応が欲しい

芸術なんて要らない
あんなにも人を感動させる芸術なんて要らない
会議室のホワイトボードに
様々な文字や図が描かれては消され残された
そしていまや夕日だけが照らしている
その文字や図に込められた熱気が欲しい

宗教なんて要らない
あんなにも人を高めてくれる宗教なんて要らない
どこにでもある教室で
さりげなく出会って言葉を交わし
少しずつ親密さが増していく
その愛にも恋にも至らない二人の想い合いが欲しい


自由詩 雑踏の中で Copyright 葉leaf 2013-09-22 16:57:31
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