またとない別れのために
ふある

蝶々が空を飛んでいきます

信号が青に変わったので
横断歩道の白線を跨ぐ
振り返って立ち止まると
車のクラクションが鳴るので
よく見ると信号は赤だった

白い傘を差した人が歩いています

噴水の向こうには石の椅子があり
座っている人の目は虚ろ
一瞥して通り過ぎると
罪深い気がしないでもないので
目を閉じておく

折れた枝が風で転がります

裏通りを真っ直ぐ進む
誰も追い越しては行かない
目を下げると
影はずいぶん伸びているので
僅かに悲しみが湧く
出来るだけ忘れたい人がいる
本当は少し曲がると近道だけれども

自転車が横切ってゆきます

人の無い学校は冷たい
死んだような廊下に足音がする
教室の黒板には何も書かれていない
一つの机に就く
確かにあの日はあった
見えないものがあるけれども

音が少しづつ消えていきます

堤防沿いは黒く染まって
そこから橋を渡る
家が口を開けて待っている

そのまま眠りに就きます
音は微かに残っています

蝶々は確かに空を飛んでいました


自由詩 またとない別れのために Copyright ふある 2003-10-31 17:18:56
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