軽口
コーリャ
新しいノートを開いて。さいしょのページだけ。きれいな字を書くようなひと。僕もいっしょだ。
サイドミラーに映った、中華門のおおきな金文字。鳥居っぽいね、話しかけると。となりでは眠るひとがいた。遅いな、とおもった。38度。暑すぎて、透明な鳥が光の群れではばたいている。
友人は、ついさっきですね、強盗をね、ちょっとしてきたところなんですよ、と、いわんばかりのたくさん小銭の入った袋をかついでいたのに、(たくさんのエリザベス女王たちが、それぞれの年代に応じて雅にする微笑み)銀行からでてくるときは、お札を何枚かぺらぺらしていた。このスキルを世間では両替という。$634もあったんですよ。スカイツリーといっしょですよ。といって。銀貨でできた塔を発見したみたいに笑った。
ですからね。とさっきまで眠っていたほうの男は、会津弁でしゃべるときのように、言葉を北風にとばされないじゅうぶんな速度をたもちながらいった。逆銀行泥棒はスーパーに買い物にいった。僕らはショッピングセンターのベンチにすわって涼んでいた。待ちぼうけ。「ですからね。可愛い。なんていうのはよくないす。美人。っていえばいいす」僕はちょっと笑ってしまう。「なんでかというとすね。可愛い。なんてゾウにもいえるす。なんでも可愛くなるす。そうじゃないす。美しいす。」「じゃ、きくけどね。美しい、ってなんなの?」目の前の特設ブースの天井だけ、なぜか雨漏りしていて、誰かを呼びにいったのだろうか、その場で脱ぎ捨てられた着ぐるみは、まるで今までの人生すべてが失敗だったかのように、うなだれていた。落ちる水滴はリズムにのって、白いバケツへと集団自殺的な飛込みをつづける。みているだれかが涙をながしてしまうような、かなしいやりようが、いつまでもみつからないまま、飛び込みつづけた。
じぶんがそんなにかわいそうですか?
僕、革命しますよ。と冗談をいうと、タバコをまぜるのがヨーロピアンスタイルや!でおなじみのR氏は革命をするとしたら、どえらいトンネルを、地球のコアに貫通させて、ブラジルまで二時間で到達できるインフラを整えることを公約してくれた。マグマの海中クルーズ。サブマリンに乗って。透明な怪獣にも会いにいけるかもしれませんね。というと。 透明なねぇちゃんもおるがや、透明なデートや、服を脱がさなくていい、そもそも透明だから。といってみんなを笑わせた。
(街をそうように生きてきたから。これからもそうする。ぐるぐる回る。ひとつのコースばかり走る仮免運転の助手席で、プラスチックカップのなかの氷がいくつか溶ける温さにさだめられた。夏時間の熟した夕暮。ジャカランダの花冠の紫が、いろのある陽光に騙されて、桜色に変わり果てて、それが、夏なのに、並木道で、ゆっくりと、みずからちぎって落とす花占いを、窓から首をだして見上げた僕は錯覚しつづける。(北半球だけが皮むきされて
(AとBが双子のように交差したそばから入れ替わり(愛の「あ」と「い」がお互いの向こう岸から。(やさしいこと。降って。半袖と半ズボンがはばたいて。弱いこと。罪深さ。風が咲いて。手をのばす。花が。
過不足ない錯覚。なにもかも?
夜の窓辺が明るい夢を見ている。どこまでも書き綴られることにいみなんてないことが分かったノートは窓際の風にあおられて、一枚、一枚はがしていく自分たちが時のすばやさのなかに・・・・・・?
こころや過去
No man is an island.
とおくにみえる
漁火が。)
そして朝がくると昨日のことをぜんぶ忘れてしまう。夢の破片がくだけちるのをみつめながら目覚める。日課のジョギングをする。僕は走る。走る。走る、が、走れ、にかわる。走れ。僕は走れ。心臓が溶けるまで。僕は、僕を、けしかける。息を、吐き切りながら。かんがえる。僕はいま直線だ。直線的に、あなたに、向かってる。もう二度と、会うことのない、あなたや。名前も、顔も、まだ知らない、あなたへ。あなた、あなた、と、走れ、走れ。だれでもない、あなたへ。強く。
・・・・・・そして絶句。とりあえずの結末。ノートを最後まできれいな字で書き終えたことがないように、きれいな終わりなんていちども出会ったことがない。だからせめて最後には、透明な怪獣への手紙をきれいな字で書こうとおもってる。透明な挿絵だってそえる。透明なデート。したいな、みたいに。心のなかではいつも冗談をいってる。破ったページでつくった紙飛行機が世界の透明に隠されていく。そんな冗談。もう二度とだれかのために詩なんて書かない。ぜんぶ愛していたよ。憎むことはあったけれど。それも、もちろん。冗談だけれど。さようなら。
と汚い字で書いた。
自由詩
軽口
Copyright
コーリャ
2013-09-18 02:02:07