雀になったおばあさん
もっぷ

陽当たりと静けさを求めてこの
大きくも小さくもない寂れた町に流れ着いたおばあさんがいました
南西角の四階に住んでいました
階段の最上階です
知り合ったのは近所のスーパーマーケット
あまりに荷物が重そうだったのでつい
  お手伝いしましょうか

声をかけたのがはじまりでした
  お歳はおいくつですか

たずねると決まって
  十七歳

こたえるのです
おつきあいが深まるにつれて知ったことですが
そのおばあさんの愛してやまなかった猫は十七年を生きて終わりました
おばあさんはニンゲン時間でその猫よりも年上ですが


愛してやまなかったその猫と自分とを混同してしまったのでしょうか
でも
ボケてはいませんでした

お友だちの少ないわたしはしばしばその四階を訪れて
おばあさんの用意してくれる美味しい紅茶をいただきました
広島からわざわざ取り寄せているそうです
言い忘れましたがここは寂れているとはいえ一応首都東京です
その外れにわたしたちやほかの貧しい人々が
所々に豪邸もありますが
住んでいる
そんな少しかなしみが似合う町なんです
わたしは紅茶をいただく代わりにいつも
近所のケーキ屋さんでレアチーズケーキを買って持って行きました
おばあさんの大好物でした
十七歳のおばあさんの口癖は
  雀に生まれたかった
でした
雀といえば猫のおもちゃ
いいのかしらと思いながらも神妙におばあさんのお話を聞いたり
わたしのことを聞いてもらったりしながら
仲が続いていました
わたしたちは孤独でした
わたしにはちゃんと家族はいました
おばあさんには家族はいません
けれどわたしは孤独をかこっていましたから
(それについてはわたしはここで何も言いません)
(そしておばあさんもわたしと同じ身の上なのでした)


錯乱


初めて知りました
初めて知りました

おばあさんは
おばあさんは突然に
わたしのみている目の前で窓から空へと飛び立ったのです!
念願の

雀になった
おばあさんは赤の他人のわたしに看取られてその
人としての命のおしまいを選びました

いまわたし雀をみると話しかけるんです
  紅茶はお好きですか
  レアチーズケーキはお好きですか



自由詩 雀になったおばあさん Copyright もっぷ 2013-09-16 15:38:58
notebook Home 戻る