卑小な
花形新次

異様な色の雲が
頭上を物凄いスピードで流れ
不吉な予感が
風に乗った電波で
直接的に送信される

老婆が路上に倒れて
泡を吹き

幼児が2人
互いの髪を引っ張り合い

若妻は
軒先で行水をしながら
陰毛に少しだけ
ハサミを入れ
夫の帰りを待っている

蝶ネクタイが
斜めになるのを
気にする男をたしなめる
と同時に
こんなことは
長くは続かないと思う

それは異様な色
海草色の雲に表れている

俺達はもう
あの頃には戻れないだろう
痛ましさを待っていながら
いざ目の前にしたとき
何時もと同じように
薄ら笑いしか
浮かべられなかったのだから

倒れていた老婆が
立ち上がり叫んだ。
「償うべき罪のない人生は
生きる価値もない!」

幼児は噛んでいたガムを吐き出し

若妻は軽蔑するように
小振りな胸を隠した

怒り狂った
蝶ネクタイの男が抜いた
ナイフの刃に
異様な色の雲が映った

卑小な死ほど相応しい
さあ、ドンと来たまえ









自由詩 卑小な Copyright 花形新次 2013-09-14 22:42:00
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