電子レンジ
青井


 電子レンジの中で何が起きているのか
 ぼくはよく知らない
 中に入れた物が熱くなって出てくる
 そういうものだということの他は
 操作方法だけ知っていれば困らない

 ターンテーブルの無いのが今では主流らしい
 旧式の黄ばんだ電子レンジのボタンを押す
 無骨なマグカップがスポットライトを浴びて回る姿は
 もうずいぶん見飽きた光景だけど
 いつもついついじっと眺めてしまう

 なにがどうなって牛乳が熱くなるのか
 オレンジの光が何か関係あるのか
 考えたところで知らないのだから分かるはずもない
 高校のとき物理で落第しかけた
 ウィキペディアを読むのは面倒くさい

 電子レンジの仕組みを詳しく説明できる人が
 世の中にいったいどれだけいるんだろう
 そしてその電子レンジに詳しい人は
 ヒエログリフは読めるだろうか
 民法が何条あるか答えられるだろうか

 他の誰かがきっと知っている
 だから世の中は回っている
 そう誰もが思っている
 そうして世の中は回っていくのだ
 ターンテーブルのように同じところをくるくると

 チンと聞き慣れた音がしてマグカップが立ち止まる
 扉を開けると牛乳から湯気が出ている
 それを不思議に思う気持ちはとうに薄れた
 当たり前のように今日も生きている
 底なしの未知に満ち満ちたこの世界を



自由詩 電子レンジ Copyright 青井 2013-09-14 12:48:36
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