この美しい場所で
平井容子

わたしはまだ生まれていない

さるすべりの上を
からすが何機も飛んでいた
わたしはわたしの屋根を吹き飛ばすものを
そしてそれがやがて生まれくる箱の首を
絞めたのです
そっと
やわらかな推進力を受け
かならずそこに吹くであろう風を
かろうじて見た
あの一切の記憶のむこうがわに

目をえぐり 鼻を縫い 耳をそぐ 洗礼の果てで
わたしは生まれた そして会いたい

百合のこどもの胸の骨が腐り
手づかみにしたところから痛みが広がった
ここにのこされたものはなんだろう
すべて忘れられてしまったあとで
ときどき奥のほうからやってくる
嘔吐みたいな
なにか
見るだけで壊れるものはいつか
見なくても壊れる
できない
わたしは生まれなおすことができない
花で折った鳥が飛べないのとおなじに





自由詩 この美しい場所で Copyright 平井容子 2013-09-12 15:52:43
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