地下鉄
佑木

静かな失望が黒色の気泡を上空へと沈めるころ

空席に向かって話かけるひとがいる

ちいさな声で とぎれ とぎれ
隣の空席に一生懸命 生きるための説明をしている

いずこの街にも聞こえてくる哀しみよ

冷たい視線で距離をとり 眺める女子高生たちは 
けげんそうに好奇の沈黙を投げる

冷笑のなかに走行の痛みが流れる

吊り革にぶら下がる疲れた者は

彼女等の視線を遮ろうと
そのあいだに入って一歩踏み出す

電車はいつもどおり終点へと急ぐ

生きるための説明は

終着点まで 誰もが 何の説明もない
出発点と同じように


吊り革にぶら下がる 疲れた者は
窓ガラスを流れるあなたの風景を心に描く

無関係を装うこの地下鉄が ぼくらを揺らしながら

平凡という宇宙の底に 黒色の気泡を沈めてゆく


自由詩 地下鉄 Copyright 佑木 2013-09-12 01:32:36
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