「ガンバの大冒険」
板谷みきょう
当時、白石に住んでた保母さんと
絵本のことで随分と馬が合って
良く二人で素敵な絵本を見付け合っては
彼女の住むアパートに長居して
話し込んでいたものだ
まだ若かったこともあって
結構熱く語ることが多くなり
彼女はいつの間にか
聞き役に回ることが増えていった
ある日
彼女の元を訪れて夜も遅くなりかけ
玄関先で別れを告げると
「私の気持ちなんか
ちっとも、気付いてくれないのね。」
そう言われた
今まで、一人の女性だと思って
付き合っていなかったのだが
彼女の真剣な眼差しから
精一杯の告白の言葉だということが
伝わってきた
どうして良いものやら…
困惑してしまっていたが
その姿が不恰好に思えたボクは
至極当然のように
「なぁんだ。それならそうと
最初から言ってくれてたなら
ボクにも覚悟ができてたのに。」
そう言って
一度、履いた靴を脱いで
再び彼女の部屋に上がり込み
彼女を抱こうと肉体を求めた
「そういう意味じゃない。」
彼女は拒み、そして
帰るように促してきた
ボクは、下衆な男のように
「だったらどうして欲しいんだよ。」と
吐き捨てるように言って
部屋を後にした
それが
彼女と会った最後だった
それから暫くして
彼女が嫁いだことを風の噂で知った
結局
何にも無かったのだけれども
あれから彼女とは会うこともない