青黄黒緑赤
アラガイs


生前の祖父のことをよく覚えてはいない
祖父はわたしが物心つく前には亡くなっていた
抱かれた話を聞いても
、抱きおとされた怖さを聞いても
、色の剥げた写真に並ぶしわくちゃな姿だけが写る
長生きをした祖母
口のわるかった祖母を忘れたことはない
やさしかった記憶が何故かいまでも残っている
気の強い母とはよく口喧嘩をして
野菜を投げつけて出て行くと言い張った母
僕はそれを必死になだめながら止めた
何年も寝込んだまま
(ありがとう)嗄れた祖母の小さな言葉を
最後まで看取ったのは母だった
それから数週間
母は眼を閉じて起き上がろうとはしなかった

僕は闇に取り残された一羽のカモメ
通りすぎた波が胸の砂に縮む
また今日も陽の影が遠い空に薄く並ぶ

馬が呆れるくらいお人好しな人だった
父は心臓を患い二度も手術したが
、90才まで生きた
やさしい父だった
そんな親父に僕は何もしてやれなかった
年老いた母は親父をとっくに忘れているようだ
もっとも同じことを何度もくり返しては苛々させるのだから
いまでは人生のほとんどを忘れているには違いないのだろう

背負いきれるものは残された足跡だけで
深い静寂が一日一日と偲び寄る
汗を浴びた面影は山に並び
薄く色味を染めかえながら陽は翳る
今夜も虫たちの声が別れを惜しんでいる 。











※お題を借りて挑戦してみました 。


自由詩 青黄黒緑赤 Copyright アラガイs 2013-09-10 02:26:02
notebook Home 戻る