喝采
平瀬たかのり

 おまえは
 スプリングステークスも函館記念も勝っている
 実にたいしたものだ
 でもそれだけじゃない
 皐月賞もダービーも菊花賞も走っている
 それも五着六着四着だ
 クラシック全出走全好走なんて
 なかなかどうしてできはしない

 おまえは
 競馬場から去った後
 〈相馬野馬追い〉を走る馬になったという
 どんないきさつでその新天地が決まったのだろう
 ただおまえが走り続け
 いのちを永らえさせたのは確かだ

 アスファルトの上をしずしず並んで歩く
 きらびやかな戦国衣装をまとったおまえ
 武者姿の若者に駆られ
 砂とも土とも言えないコースを走るおまえ
 広々とした原っぱの中
 空から落ちてくる神旗に向かって突進するおまえ
 そんなおまえを見てみたかったと心から思う
 おまえの姿も競走も見たことがないのに

 法螺貝や陣太鼓の音を初めて聞いた時は
 やはり驚いたのか
 いや大レースのファンファーレを
 幾度も耳にしたおまえだ
 きっと堂々としていたことだろう
 神旗を獲った者だけが
 神殿に続く「羊腸の坂」を登れるのだという
 おまえは駆けあがっていけたのか
 「やっぱり中央で走っていた馬だ」
 「菊花賞で四着だ、モノがちがうよ」
 そんな声が聞こえたとしたなら
 うれしいことだ

 もしいつかこの祭りに
 行くことがかなったなら
 お気に入りの黒鹿毛を見つけよう
 そしてその馬に
 勝手におまえの名前をつけてやろう
 「おーい、がんばれよ、サーペンプリンス!」
 そう叫んで喝采を送り続けよう

 きっといつか会おう

  (サーペンプリンス)


自由詩 喝采 Copyright 平瀬たかのり 2013-09-06 15:43:54
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