六本指の女
salco
ある所に六本指の女がいた
小指の横に不様な枝のよう
けれど女はピアノを愛した
弾けもせぬ楽器を愛した
美しい爪をして
ハープの弦の為にあるような
水晶の爪だった
鳥が飛ぶ
ガラスの空の中
ガラスの籠の中
りんどうの花
それは淡いむらさき色
はかなく揺れて
りんどうの花
女はそれを追っていた
生まれて以来いつも
ずっと
手袋の中に隠されてある
陽を見ぬ指
無残な切断面を隠すように
人目を避け
手は一層白い
生まれて以来役立たぬもの
不様な器官と誰が言ったの?
誰が言うの?
言えるの?
目を閉じて
千年の眠りに入る時
美しい声を愛した
耳に聞こえる美しい声という声
鳥は飛ぶ
ガラスの空のガラスの籠の中
やがて呼吸は夢へと向かう
潮騒のいざなう先へ漂って行くと
やがて鎮痛の温暖な海が眼下に広がる
そこに人影は無く音さえも無い
無邪気な青空と思慮の海原と
僅かな白砂だけが地球を折半している
やさしい場所を
やわらかな世界を愛した女だった