洋子ミーツ青春千五百メートルランナー
平瀬たかのり

 出場種目を決めるホームルーム
 男女を問わない千五百メートル走なんて
 陸上部の長距離走者でもないかぎり
 誰もがいちばんいやがる
 手を上げる人なんていないのに

 コーナーで
 きみを追い抜くのは
 丸坊主の一年生

 きみの席はわたしより後ろなので
 どんな顔で座っていたのか分からないけれど
 たぶん置き去りにされていたのは
 わたしたちだったのだろう

 ところでわたしはといえば
 ジャンケン勝負に勝って
 走り幅跳びに無事エントリー叶い
 走りもせず跳びもせず
 午前中はいお役ご免

 ひとり周回遅れのきみ
 あごを上げ、足をもつれさせるようにして
 目の前を過ぎていく
 わたしのほかに見ているひとはだれもいない

 直線走路
 三千メートルでインターハイに出場した
 ベリーショートがきみを
 見えないもののように追い抜こうとしている
 
 達也くんが笑いながら何か話しかけてくる
 おざなりな返事で微笑んで
 遠ざかるきみの背中をじっと見つめる
 そっと腰に手を回される
 でもわたしは思っている
 この青いビニールシートの上に
 きみが帰ってくるころ
 きっとだれもが最終種目の
 四百メートルリレー決勝に熱狂しているだろうから
 いま強く握りしめているタオルで
 汗まみれのきみの顔を拭いてやる
 この前初めて愛撫という言葉を知った
 その日のざわめく心のまま
 何度もていねいに拭いてやる

 わたしは立ち上がるタイミングをはかりながら


自由詩 洋子ミーツ青春千五百メートルランナー Copyright 平瀬たかのり 2013-09-04 08:51:17
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