若く、美しい男
うめバア

あたしが何を見たって?
6月27日の夜
そうね、雨だったわ。
2AM
裏通り、濡れて光る外灯の下に
若く、美しい男が立っていた

男がいるのはこの世界の真ん中で
これから男に降りかかるのがどんなことか
だれもわからない
世の中をあっと言わせるような
大きなことかもしれないし
何かとてつもない厄災かもしれない
わからない
ただ、その男はとても若く、そして美しかった

男が抱えているのは
悲しみ、あるいは抑えようのない怒り、少しの不埒さと、恐怖
男がこの世を憎めば憎むほど、この世も男を憎む
でも男は、捉えられてしまったの、この世界に生きることに
だからとりつかれるように生きていくの
それが男の運命
年を取って、美しさが去ってしまうまで

だれかに似てるかって?
たとえばあたしの昔のひとに?
ううん、そうじゃない。
そんなんじゃないの、あたしが言いたかったのは
ただ男はとても若く、美しかったってことだけ
そしてたとえようもなく、孤独だった
この世のすべてをばかにし、浪費してもなお独り

雨が、しずかに、しずかに、男を抱きとめて
一緒に泣いていた。
私は暗がりの中、しばらく彼を見つめ
そしてカーテンを閉めた
これがあたしの見たもののすべて
それから一度も、男をあの外灯の下で見たことはない

若く、美しい男
それはあの、6月27日の雨の夜の
数秒の、詩みたいなもの。




自由詩 若く、美しい男 Copyright うめバア 2013-09-03 07:00:26
notebook Home