おとこのこ、おんなのこ/あかいいと
茶殻

「ずっと、スカートなんか履いたことないよ」
男の子だから、ぼくは
薄荷の声を持っていないから
ならば女の子にだってそんな必要は無い
ガーリッシュを追い求めて
要領の悪さだけがさえなく空走る
・ピエロのメイクも弱い肌にはこたえるもので

おもむろに神父に爪を立てられて
君が月の満ち欠けに気付く日が来ると
ぼくは君の代わりになんてなれないと諭す
キスをして唇を入れ替えるような
いやにグロテスクな魔法があるなら
君の代わりに子供を孕んだっていい
・一生それを産み落とすことができないとしても

泥だらけの手をつないで
開いたスカートのなかでパンツが砂まみれになって
アシカが戯れながら愛を語らう渚のように
夕映えをひと息に飛び越えてしまう公営団地の
長い影に追い立てられて僕たちはたぶん
おんなじように国境のようなものを飛び越えて大人になるんだと思う
・並木の細い枝にかけられたゴムの縄跳び、誰かの忘れ物、誰かの善意、蝉の声

「前にどこかで会ったことない?」
台詞から入るのは半人前のジゴロ
ずるいねと後ろ指をさされるのはやはりいい気分ではない
長ったらしい恋文なんて書いている暇がないわけだけど
そんな実務的な理由じゃなくても
前に一度どこかで会ってた方がいいとそのたびに願う
・メスを入れる前の面影も辿れないのは僕の鈍さなんだろうね、やりきれないや

同じお菓子を食べて
同じ紐を引っ張り合って
地平の徳俵を踏み外して
いちご、いちえのリテイクと早送り
僕が出会ったものは
いつか他の誰かにだって簡単に出会うことができる
・そんな時代だ、悪いことじゃないんだよ、イミテーションでも奇跡は奇跡だ

そういうことにして
そういうことをしていく
空洞を吹き抜ける風は姦しく
炭のような明滅を伴う発熱と鈍痛は永遠の予感さえ漂う
一粒噛み潰した胡椒の心地に後ろめたく
触れた口紅は相変わらず薄ら苦みを帯びて
ぼくは間違って女の子に生まれなくてよかったと切に思う
・あなたがグラスに残した捺印もまた、バーテンダーの手拭いでそっと消える



自由詩 おとこのこ、おんなのこ/あかいいと Copyright 茶殻 2013-09-02 01:01:35
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