『担架』
あおい満月

鏡の前のぼくの瞳に映る彼女は
血の涙をながしている
彼女は聖母なんかじゃない
手には電気コードを持っている

黒い電気コードが
ぼくの首を締めつける
ぼくの口から彼女の手が這い出てきて
ぼくの眼を抉る
彼女は何者なのか
赤い眼をしている

化身とはなにか
情念の化身とは
ぼくのなかで蟠るものが
毛孔から湧き出でるように
ぼくの足元を流れていく
地下鉄の窓に
血に濡れたぼくが映る

急ブレーキで
電車が止まる
人が飛び込んだという
アナウンスが流れる
ぼくは見た。
見覚えのある白い手が
血にまみれて運ばれていくのを
担架の上の彼女は
赤い眼をしながら
笑うように
息絶えている


自由詩 『担架』 Copyright あおい満月 2013-09-01 12:23:04
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