葉leaf


母屋から公道へ向かう道沿いに
桜並木があった
幼い頃、彼は花の美しさを知らなかった
小学校に入学したころ
桜は満開で彼を祝福していたが
彼はその祝福さえ知らなかった

大学を出たのち就職に失敗したころ
彼は暗い気持ちでまた春の桜を眺めた
桜は満開で彼を慰めようとしていたが
彼にはその色香が過剰に思えた
彼にとって桜は美しすぎたのだった

彼は故郷の山を登り
ベンチに仰向けになって
生い茂る木の葉と青い空を眺めた
太陽よ全てを焼き尽くしてしまえ
風よ全てを吹き飛ばしてしまえ
そんな風に激しては虚しくなって涙を流した

あるとき試験に合格し
やっと進路が開けたころ
また春はやって来て桜が満開になった
桜はもはや何も語らなかった
だが彼は桜の沈黙の表すことをすべて理解した
彼は桜の花に包まれて
彼と桜と風景と
すべてが語らずとも均衡し抱きあっていることを理解した
そして、桜は初めて彼にとって美しかった



自由詩Copyright 葉leaf 2013-09-01 07:14:08
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