夏野菜
梓ゆい

トマト畑に、食の神様がいた。

真夏の午後

トマトを一つもぎ取って

冷たい水にひたして

丸かじりをする。

甘いお菓子よりも腹に溜まり

喉の渇きを潤したトマトは
祖父の生命でもあった。

「おいしくなあれ・おいしくなあれ・おいしくなあれ…。」

呼び掛けても

加工工場に運ばれてゆくプランターのトマトを

丸かじりする他人はいない…。
「トマトを頂戴。トマトを頂戴。沢山、沢山食べたいの。。」

春のトマト畑には、なぞなぞがある。

夏のトマト畑には、神様がいる。

秋のトマト畑には、死神がいる。

冬のトマト畑には、祖父がいる…

ざわ・ざわざわ・ざわ…。

主を亡くした軽トラックが

周りの田畑を見つめていた…。

ざわ・ざわざわ・ざわ…

「トマト畑に、風が吹く。。。」


自由詩 夏野菜 Copyright 梓ゆい 2013-08-31 20:56:27
notebook Home