夏野菜
梓ゆい
トマト畑に、食の神様がいた。
真夏の午後
トマトを一つもぎ取って
冷たい水にひたして
丸かじりをする。
甘いお菓子よりも腹に溜まり
喉の渇きを潤したトマトは
祖父の生命でもあった。
「おいしくなあれ・おいしくなあれ・おいしくなあれ…。」
呼び掛けても
加工工場に運ばれてゆくプランターのトマトを
丸かじりする他人はいない…。
「トマトを頂戴。トマトを頂戴。沢山、沢山食べたいの。。」
春のトマト畑には、なぞなぞがある。
夏のトマト畑には、神様がいる。
秋のトマト畑には、死神がいる。
冬のトマト畑には、祖父がいる…
ざわ・ざわざわ・ざわ…。
主を亡くした軽トラックが
周りの田畑を見つめていた…。
ざわ・ざわざわ・ざわ…
「トマト畑に、風が吹く。。。」