S62
草野春心
鳶という鳥の
名前を覚えたのもこの街だった
アキタケンホンジョーシゴモンチョウ
蜜柑色の陽射しにひたされた夢の形
パーマ液の匂いがするこの街
ここでスーファミにうつつをぬかした
ここでへたくそなキャッチボールをした
ここで祖母に愛され祖父に殴られた
ここで祖父が死んだ
エス・ロクジューニ
思い出は欠けてこぼれた乳歯に似ている
エス・ロクジューニ、僕は生きている
陽射しが夏の緑をはぐくむみたいに
夢はすこしずつ形を変えて石垣に巻きついてゆく
そしてそこで僕は生きのびてゆく
エス・ロクジューニ