S62
草野春心



  鳶という鳥の
  名前を覚えたのもこの街だった
  アキタケンホンジョーシゴモンチョウ
  蜜柑色の陽射しにひたされた夢の形



  パーマ液の匂いがするこの街
  ここでスーファミにうつつをぬかした
  ここでへたくそなキャッチボールをした
  ここで祖母に愛され祖父に殴られた
  ここで祖父が死んだ
  エス・ロクジューニ
  思い出は欠けてこぼれた乳歯に似ている


  
  エス・ロクジューニ、僕は生きている
  陽射しが夏の緑をはぐくむみたいに
  夢はすこしずつ形を変えて石垣に巻きついてゆく
  そしてそこで僕は生きのびてゆく
  エス・ロクジューニ




自由詩 S62 Copyright 草野春心 2013-08-31 18:56:20
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