秋を迎える為に作る花火があってもいい
Neutral

拝啓 酷暑の折 いかがお過ごしでしょうか
僕は一足先に
夏に別れを告げるつもりです
今日の帰り道 揺れるススキの穂を見つけ
あと少しで訪れる秋が待ちきれなくなったからです
あの頃僕は 夏の活気を見下しながら
人の心を掠め取って紅葉する秋の風でした
今でも変わってませんが
マフラーと伸ばした髪で顔を隠して闊歩する
寂しかった子供時代に戻してくれるから
僕は 涼しくて切ない秋が大好きです
歳を重ねるたびに
僕の事を知っている人は少なくなっていきました
まるでふるいにでもかけたように
今でも残っているのはほんの一握りもありません
色々なものに告げてきた別れ
僕は噛み砕けずに呑み込むだけでした
それが いつかなくならないかな と
すれ違う人々から盗んだ言葉はタンスの肥やしになっていきました
砂浜に敷いたレジャーシートを丸めるように
優柔不断に 言葉を転がしていました
思い切って空に打ち上げてみたら
散らばった想いを 夜空に轟くその音一つで丸めこんだのでした
花火の光がこの星のカーテンの色を変えていき
季節は秋になりました
真っ暗な空に残ったのは
透明なガラスにつけられた手あかの様な煙だけでした


自由詩 秋を迎える為に作る花火があってもいい Copyright Neutral 2013-08-31 13:13:47
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