それでも夢は(改作)
永乃ゆち

それでも夢は叶うと言い切れますか?



夏の暑さは嫌いだ。
ジリジリと肌を焼く。


けれど冬の寒さはもっと嫌いだ。
ジンジンと肌を刺す。


あの人は夏の暑さのように
冬の寒さのように

素知らぬ顔で私を傷つける。

優しくしない事が優しさなんだと
私は自分を納得させる。


そうやって五年が過ぎた。私とあの人の関係は変わらない。
手の届かない人。焦がれてはいけない人。


あの人は上手に息継ぎのできない私に
「諦めないで」と言う。
そして自分の人生に絶望する私に
「夢はきっと叶うよ」と言う。


冗談じゃない。大抵の人は夢を諦めざるをえないし
世の中はどうにもならない事だらけだ。

だって今までそうだった。
どんなに殴られて泣き叫んでも
誰も助けてはくれなかったし
逃げ道なんてなかった。
男に力ずくで奪われた時も私は独りだった。

私の夢はあの人の子供を産むこと。

それを聞いても
まだ、夢は叶うと言うのだろうか。

教えて下さい。

それでも夢は叶うと言い切れますか?


汚れた身体を引きずって
一日30錠のお薬を飲む。
そうやって、何とか毎日を生きている。

唯一心から愛した人は決して手の届かない人だった。


あの人は何も知らない。私の愛も絶望も。



「世の中どうにもならん事ばかりじゃ」
吐き捨てるように言うと、あの人は
寂しそうに笑って
「でも、諦めないでね」
と言った。


夢は叶うなんて、軽々しく口にするもんじゃないよ。


先生。


期待するから。
希望に揺れるから。


でも大丈夫。
30錠のお薬と
先生の笑顔だけを支えに生きていくから。


届かないなんて最初から知ってたんだ。


叶わないなんて最初から分かってたんだ。


それでも束の間の夢を
未だに捨てきれずにいる。

悔しいけど
捨てきれずにいるんだ。






自由詩 それでも夢は(改作) Copyright 永乃ゆち 2013-08-29 20:05:19
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