夏の横断歩道
山人

空気がゆがんで見える夏の日
その横断歩道には
日傘を差した若い母親と
目線のしたで無垢な笑顔で話す少年
ひまわりが重い首をゆらつかせ
真夏の中央で木質のような頑丈な茎をのばしている

山間の盆地町
遠くの山々に
ところどころ乳白色の入道雲が
かなしいほどの青に浮かんでいる

指差すむこう
そこに何があるのだろうか
鮮やかにひろがる果実のような少年の笑顔のうえに
おだやかな母親の日傘があった

一部始終 あらゆるものがあらゆる目的で存在し
そうしてたたずんでいる
仕切られた建物も
道ばたの草も虫も
道路をへだてた小さな町工場も
交差点の端に構えられたコンビニも
まぶしい青空の下の少年と母親の存在も


横断歩道を静かに渡る少年と母親
炎天の中
ふたたびおだやかに夏は浸透して
蝉時雨はふと現実に戻っていた

歩道を渡り終えた少年と母親の表情はもう見えない
車椅子はコロコロとどこかに向かっている


自由詩 夏の横断歩道 Copyright 山人 2013-08-29 07:17:54
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