夏の横断歩道
山人
空気がゆがんで見える夏の日
その横断歩道には
日傘を差した若い母親と
目線のしたで無垢な笑顔で話す少年
ひまわりが重い首をゆらつかせ
真夏の中央で木質のような頑丈な茎をのばしている
山間の盆地町
遠くの山々に
ところどころ乳白色の入道雲が
かなしいほどの青に浮かんでいる
指差すむこう
そこに何があるのだろうか
鮮やかにひろがる果実のような少年の笑顔のうえに
おだやかな母親の日傘があった
一部始終 あらゆるものがあらゆる目的で存在し
そうしてたたずんでいる
仕切られた建物も
道ばたの草も虫も
道路をへだてた小さな町工場も
交差点の端に構えられたコンビニも
まぶしい青空の下の少年と母親の存在も
横断歩道を静かに渡る少年と母親
炎天の中
ふたたびおだやかに夏は浸透して
蝉時雨はふと現実に戻っていた
歩道を渡り終えた少年と母親の表情はもう見えない
車椅子はコロコロとどこかに向かっている