水槽という宇宙の中で
そらの珊瑚

メスザリガニが
身籠った
腹に何百もの卵を抱え
絶えずゆらゆらと揺らして
新鮮な酸素を送っている
まるで
大切なものをあやしているように

ハハザリガニが
出産した
小さな赤ちゃんが放たれる
世界の密度が一斉に濃くなる
尾を蹴って伸び上がり
生まれたことを謳歌したのは
束の間で
翌日には兄弟に静かに食べられてしまった
命を食べたものも
等しくまた命を差し出す法則に
乗っ取って
共喰いが始まった

水槽という宇宙の中の法則は
水槽を眺めているだけの私にはわからない

オカアサンザリガニが
子どもを食べてるぅぅぅ!
私の子どもが興奮して叫ぶ
エライコッチャ
なぜか
私はチチザリガニになって
うまい言い訳を探したけれど
見つからなかった
アワワワワワ
ブクブクブク……
私を取り巻く宇宙の法則さえ
よく知らないし
もう君はあやされるだけの赤ちゃんではなかった

夏休みの宿題が終わった


自由詩 水槽という宇宙の中で Copyright そらの珊瑚 2013-08-28 09:43:08
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