交差点(暫定)
中川達矢

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ちょうほうけいとちょうほうけいと
大きさのちがう名もない石が積まれた
小さな城壁にくもが這う
そこにおとずれた一匹の蝶
「朝です 朝です」とささやいてくれた
きみの翅には、月の光が足りないから
触れても火傷はしないだろう
だが、くもの糸には
何が宿る


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現代詩の現状をなげく人
西脇をはじめ、瀧口、田村、吉岡らの死をたびたびなげく人
それはつまり、取り残されて、生を全うすることしかできない人
だが、この現状で見つけたのが、小池昌代と宋敏鎬だった人
2010年に書いた詩の中で小池昌代の詩を引用した人
2013年8月21日、きっと、石神井にある家か清瀬の病院に引きこもっている人


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右へ曲がり、右へまがり、左へまがり、へそ曲がり、大曲に向かって曲がりましては、歌がうまれます。
「あれよあれよと 通り過ぎ
 いくよいくよと めぐりゆく
 空と大地が 反転し
 どこよどこよと つるされる
 ちゃぷちゃぷと 海だけは
 いつまでも 地球の隅で
 ただただ 淡々と 瞳を潤す」


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きみたちが乗ってきた
電車が揺れる音
やまびことなって
ベランダに蝶を誘う
黄、枯葉、黒をまとった彼ら
その色の優劣は
いまきめることはできない

今、決めることは、できなかった


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地に足つけ走る車に足はあるのか


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逆送
突き当たりもないのに
曲がるなんて
それほどばかげたことはない

決められたルールに従って
刻々と 風に身を浸すだけのことが
どうしてもできない


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直進して、直進して、直進して、直進して、

右へ曲がって、右へ曲がって、右へ曲がって、右へ曲がって、
(別にこの右は左でもいいが)
それをするなら、止まればいいのに
言うことを聞かないこの足

「お願いです。
 その糸を貸して下さい。
 そうです、あなたが紡いだ
 その糸です。」

くしゃくしゃになった両手で
両足を包みこんでほしかった
ただ それだけの夏のこと
夢でなくなってしまった
あなたの片腕を どうにか見つけたい
ただ、それだけの夏のことです。


自由詩 交差点(暫定) Copyright 中川達矢 2013-08-22 16:08:06
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