もう一人のペソア
yamadahifumi

 


この孤独な思索者に

私が今、思い考える事とは一体、何か

そんなものには何の意味もないと

ペソアの放つあらゆる言葉達は絶叫している

もし、君が何者かでありたいと望むなら

つまり、君はペソアにはなれない

自分というものを極限まで切り刻み

思考の奥の夢を見る事こそが

彼の願いであったから だから

僕達はこの天才からあらゆる帰結や答えを

望む事はできない

誰も彼もが無名で生きているから

無名で生きている事をこうも極めた人間を

親しく読むという事は

おそらくは良い事かもしれない

生きる事とは何かの針に自分が吊るされていて

そうして、みんなはそこから落下すると「終わりだ」と思い込んでいるのだが

実際は、そうではない

そこから落ちると、存外に奈落というものが

居心地いいものだと私達が気付く時が

いずれはやってくるだろう

その時、君の眼にペソアのあの彫刻のような顔が覗いても

君はその顔の奥にもうひとつの燃え盛る愛がある事を確かめるために

まだ、しばし歩まなくてはならない

僕は今、ペソアの書物を手に取って

自分の体内をかき回すかのように自分を検索する

もし、世界が一つの夢なら、私の内部というもう一つの夢は

「それ」に対抗できるもう一つの巨大な伽藍の夢だと

私が知っているから

・・・だから、私はペソアに別れを告げ

自分の無名性を貫く

その時、私は裏の世界に現れる

もう一人のペソアに出会う事だろう・・・



自由詩 もう一人のペソア Copyright yamadahifumi 2013-08-17 01:15:02
notebook Home 戻る