月光への誓い  ーー君へーー
yamadahifumi

僕は君が誰か知っている

君は飲み会の席では

愛想笑いを振りまきつつ

一応の手拍子やちょっとしたそれなりの話をして

「盛り下がらない」程度の芸当はできるが

しかし、それも君にとっては

義務感から行う一つのサービスにすぎない



僕は君が誰か知っている

君は彼氏に手をつながれている時、あるいはセックスの時

少しの安らぎと興奮を覚えるのかもしれないが

しかし、君は彼氏の脳みそが

セックスと金と打算以外に何にも詰まっていない事をよく知っている

・・・なのに、君はその彼氏を信用しようとして

彼氏が甘えたりねだったりしたら

ついつい、それを許してしまう



僕は君が誰か知っている

君は会社でも控えめで

そして仕事がよくできるから

君の上司や部下はついつい、君に頼りすぎてしまう

だけど、君はそんな周囲に

抗議の声を上げる事はできない

君は人々に「嫌われてしまう」のが

何より、嫌だから



僕は君が誰か知っている

部屋の中に一人ぼっちで座って

膝を抱え込んで考え込んでいる君の姿を

君はこれまで来た道、そしてこれから歩む道を思案して

不安に苛まれ、途方に暮れる

これまで君がしてきた事は

人々の要求に合わせて

拙いダンスを踊っていたという事だけ

そして、君が君の本当に歌いたい歌を歌った事は

一度としてなかった

そして、君はその事に対して密かに

抗議と不安の声を自らの中に育成させてきたのに

それを心からの声として発した事は

やはり、一度もなかった

君はこれまで人々にいいように使われてきただけた

だから、君は疲れている

君はとても疲れている

僕は君に言う

「いつまで、そこで眠っているんだ」と

君はもうそろそろ気づいてもいいはずだ

君がこれまで尊重していた人が

君が嫌われたくないと思っていた人々が

どれほど愚劣な連中かという事を

そして、君の中に光り輝く

魂があるという事を

君はもう三十を過ぎている

もう、君はその事に気づかなくてはならない

歩き出すのに遅すぎるという事はないが

君の体がまだステップを覚えている間に

君は立ち上がり、歩き出さなくてはならない

その時、君は厳しい表情をしている事だろう

それを、人がなんと言おうと

君は決して、振り返ってはならない

これは君の人生であり、他人の人生ではない

君はこれまでの人生をずっと

他人に捧げてきた

それはもう十分だ

君はこれから

君自身の唯一の人生を

君そのものに捧げなければならない

その為に、さあ、まず君は

風呂へ入って体を洗い

そして窓からのぞく月に向かって

これから自分がどんな人生を真に歩むか、その道筋を

その月光に固く誓うのだ

「今日からは違う自分を歩む」

・・・と、その事を


自由詩 月光への誓い  ーー君へーー Copyright yamadahifumi 2013-08-14 09:12:51
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