ミズクラゲの一生
Lucy

プラヌラスキフラストロビラエフィラ
呪文のように覚えているのは
予備校の先生が絶対にこれだけは
おぼえておいて損はないぞと言った
生物の秘密兵器

必ず出題されると信じて
歩きながら
口の中で何度も唱えた
忘れないように

フェンスのむこうで
植物園の名も知らぬ木が
大量の落ち葉を舗道に落とし
口を閉ざした孤独な行列の
私もひとり

オールをなくしたボートのように
時間の海に漂いながら
プラヌラスキフラストロビラエフィラ

魔法の呪文であったらいいのに
それは自分が誰であるのか知らぬまま
変態を繰り返す
半透明な水の生き物
もしこのまま何者にもなれなかったらと
慄き
今と違う別な姿になることだけを
待ち望み

スローモーションで
泳いでいた
木立のすきま
舗道の上の
空間を埋め
私の手足を重く圧迫し続ける
青く透明な
水の中を


自由詩 ミズクラゲの一生 Copyright Lucy 2013-08-08 23:26:09
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