蜻蛉の泉
月乃助

 空に むきだしの骨をさらす伽藍
「歴史」はいつも古びた建物を残していく


廃墟のあとにしか 平和が生まれることがないのなら
平和は、あまりに残酷な子


森は、朝にめざめ
戦いの前ぶれのように 覚悟をきめ
映像でしか知ることのない その日に歩みいる


核分裂が刻印した
蛮刀がふりおろされた 港街の眉間へと、深山へと


蹲るのは、
人間を否定する 非・人間的な
生きた/焼けた人の塊


泉のほとり
少女は、昨日落とした願いの
小石をひろっている
 ‐ その指先に 蜻蛉が翅をやすめるにまかせ


( 海のむこうの誰もが、
   いつか その小さな指が武器を組み立てるのを 恐れた )


すべては、懐疑
すべての 終焉は、「 破壊で、なければならない 」


少女は、小石を泉になげつづける
波紋に自分の姿を 目にすることがないように


わたしは、ただ
森に出会った少女の
焼け爛れた むざんな手をとって歩みはじめる


森のやわらかな土をえらび
少女を埋める
美しいおとぎばなしを
聞かせてあげるため


その目と 鼻と 口と 黒く爛れた
区別のしようのない顔から 土をかける
そして、こんもりと土をもる


名もない
小さな石の墓標に
二度とくりかえされないよう
忘れ去られることがないよう
手をあわせる





    *





 朝 森にサイレンがなりひびいた
私は、許しを請うものの顔で 
 重く
 深く
こうべを 垂れた










自由詩 蜻蛉の泉 Copyright 月乃助 2013-08-06 16:57:30
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